安田のはてなブログ

サンフランシスコ・シリコンバレーでの投資活動を通して学んだこと、感じたことを書いてます。

クラウド・バイオロジー

アンダリーセンホロウィッツ(a16z)がUS$200Mのバイオファンドを始めたり、ハードウェア専門のアクセラレーターを主催しているSOSVが、サンフランシスコとヨーロッパにて、Indie.bioというバイオテック専門のアクセラレーターを始めたり、さらには去年の夏からY Combinatorでもバイオテックのスタートアップに投資したりと、テック系の投資家がバイオテクノロジーに注目をしています。

 

従来は、バイオ専門の投資家が中心だったバイオテック領域に、なぜ今テック系のVCが注目しているのかを、a16zやIndie.bioが公開しているコンテンツを元にまとめてみました。

 

急激に進むDNAシーケンシングの価格低下

 

以下のグラフは、National Human Genome Research Institute (米国立ヒトゲノム研究所)からのレポートからの引用です。

 

2008年くらいからDNAシーケンシングの価格がムーアの法則を超えるスピードで下がっています。次世代DNAシーケンシングという技術革新により、遺伝子の読み取り価格がすごいスピードで下がっています。また同技術によりスピードも上がっています。

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クラウドバイオロジー(Cloud Biology)の潮流

 

ソフトウェア系のスタートアップでは、AWS(アマゾンWEBサービス)のクラウドサービスの出現によって、起業のコストが劇的に下がりました。以前は自分たちでデータセンターと契約し、サーバを買う必要があったため、企業コスト($10-20M)かかっていたところが、今では個人のクレジットカードでAWSを契約し、オープンソースを使ってさくっとプロダクトを作れます。$2-3M調達すればアイデアの検証と初期段階のビジネスまで作ることが可能となりました。

 

バイオテックのスタートアップの場合、自分たちでラボを用意し、ラボの科学者を雇ってといった段取りを踏み、長い時間をかけて実験をする必要があったため、初期投資が$100Mくらい掛かっていたそうです。今では、a16zのバイオファンドのジェネラルパートナーを務めるビジェイ・パンデ (Vijay Pande)氏によるところの”クラウドバイオロジー”によって、ラボ業務を全部アウトソースすることができるようになり、ソフトウェア系のテックスタートアップと同じくらいの投資額で、起業ができるようになりました。

 

もちろん、これまでもCRO(Contract Research Organization)という形態で、ラボの実験を受託する会社もあったのですが、Transcripticのようにロボットを使ったラボ実験受託スタートアップに代表されるように、データやソフトウェアを最大限に活用(バイオテックのコード化)することができ、実験の再現性やスピードを格段に上げることができるようになったことは大きな変化であると捉えられています。

 

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(写真は、Transcripticのラボロボット。The Verge "Inside the secret robot lab that's shaking up sciense." より)

 

まさに、高い資本効率とスピードといったテック系のVCが好む条件を満たしていますね。

 

ソフトウェア+バイオのダブルメジャー学生の増加

 

a16zのビジェイ・パンデ氏によると、スタンフォード大学の学生の80%は、自分の専門分野に加えてプログラミングの授業を受講しています。もちろん、バイオ分野も例外ではなく、バイオとコンピュータの両方を理解している学生が増えているとのことで、彼らがAI等を活用した新しいタイプのバイオテックベンチャーを起業しています。

 

製薬会社における変化

 

ファイザーのCEO ジェフ・キンドラー(Jeff Kindler)氏は、a16zのポッドキャス(Move Fast But Don't Break Things)の中で現在製薬会社で起こっていることを、かつてハリウッドで起こったことと似ていると言っています。

 

ハリウッドは、かつてのなんでも内製主義から、社外の専門家も使って映画を作るというビジネス形態に80年代に移行しました。製薬会社も、株主からのプレッシャーもあり、コストを抑えて事業を回すため社外の専門会社へのアウトソースを積極的に使い始めているとのこと。これにより、スタートアップも大手の製薬会社と仕事ができるチャンスが広がりました。

 

以上の理由から、バイオテックに本気になりだしたテックVC。現在シリコバンレーでは、従来のテック系のエコシステムも巻き込んで急速に発展しています。

 

今後もあっと驚くようなバイオテックスタートアップが生まれてくるでしょう。楽しみです!

 

参考にした資料

a16z Podcast: Bio Meets Computer Sceince

When Software Eats Bio

a16z podcast: Move Fast But Dont't Break Things (When It Comes to Computational Biology)

Indie Bio SF Demo Day 02 - Feburuary 2016