なぜオバマ政権下でヘルスケアスタートアップが大量に生まれたのか?
(写真:whitehouse.gove)
前回は、バイオについて書いてみましが、今日は、オバマ大統領が米国で起こしたヘルスケア革命が、スタートアップ・エコシステムにどのようなチャンスをもたらしたかを書いてみました。
オバマ大統領は、ヘルスケア改革を公約の1つとして当選し、その後、任期中にアフォーダブルケアクトを含め、ヘルスケア全般で様々なイニシアティブを取ってきました。
例としてよく取り上げられるのが、健康保険制度改革です。米国では、必須ではなかった健康保険を義務化し、加入していないと罰金が課せらることになりました。結果、1270万もの人たちが新たに健康保険に加入しました。オバマケアによって従業員に保険に加入してもらう必要の出て来た中小企業向けの保険代理店事業(例:Zenefits)や新たな保険商品を自社で提供するスタートアップ(例:Oscar)などが生まれました。
そして、オバマ政権下では、健康保険以外にもヘルスケアスタートアップの大躍進に寄与した以下の大きな考え方のシフトがありました:
- 診療報酬のボリュームベースからバリューベース
- 医療データのデジタル化への後押し
診療報酬のボリュームベースからバリューベスへのシフト
これまでの診療報酬は、治療内容・項目に基づく医療費の設定(ボリュームベース)に基づいて計算されていました。オバマケアでは、ボリュームだけではなく、患者中心のバリューベースによる医療費の払い戻し制度を導入しました。バリューベースでは、お医者さんは、より多くの治療を行うことではなく、自分が治療した患者が、その後どれくらい健康であったかによって医療報酬が変わってくるようになったのです。
これにより病院は、退院後や通院と通院の間にも患者さんの健康状態を確認する必要ができました。スタートアップは、このニーズを察知し、リモートモニターやリモート診療のスタートアップが数多く生まれました。
さらに、病院が診ている人口の健康状態全体を管理しようというコンセプト「ポピュレーションヘルス」が生まれました。リモートモニターデバイスやウェアラブルから大量のデータが入ってきますし、ユーザの健康診断のデータなども含めると病院は膨大なデータを使って地域の住民の健康管理をしなければなりません。それらのデータを使って人口全体の健康を管理するのを助けるスタートアップ(例:Evolent Health)が誕生しました。
医療情報のデジタル化
2009年に設定された法律によって、病院は2014年までにEHR(Electronic Health Record: 電子カルテ)を導入しなければならなくなりました。また、政府は、早く導入・使用すればするほど、補助金が多く出るというインセンティブを与える一方で、期限内に導入できなければ、Medicare(65歳以上向けの国民保険制度)からの診療報酬の払い戻しが減額されるということで、医療機関は、本気でEHRを導入することとなり、Practice FusionやCareCloudのような導入が簡単なSaaS型のEHRスタートアップが出現し成長しています。
さらに、2015年末のオバマ大統領の一般強調演説では、プレシジョン医療(遺伝子・生活環境などの個人の特性に合わせた医療行為)イニシアティブの立ち上げや、バイデン副大統領をヘッドにしたキャンサー・ムーンショットでがんの撲滅のプロジェクトが発表されました。どちらのイニシアティブにも遺伝子情報やCTR、MRIを含む検査データなどの膨大なデータを扱うので、テック系スタートアップが活躍できそうな分野です。
CBInsightのデータによると、2013年からヘルスケア系のスタートアップへの投資が数・額ともに伸びています。
新たに生まれたスタートアップは、医療機関だけではなく、増大する保険料を下げたいと思っている保険会社も注目し始めています。
今後数年で、これらのスタートアップによって、米国の医療がどのように変わったかが数字として現れてくることでしょう!
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