AI時代に注目される”データネットワーク効果”
- Farmers Business Network :農家が自分の畑・作物のデータを入力すると、他の農家のデータとの比較ができる。参加農家が多いほど、収穫量の予想などのアルゴリズムの精度が上がる。
※DeNA投資先
Angel Listが発表したプラットホームのパフォーマンス
9月15日(木曜日)に、Angel Listが、同社のプラットホーム上で行われた投資のパフォーマンス(2013年に投資された分)を発表しました。IRRがなんと46%!つまり3年間毎年46%リターンが出ており、現時点で投資した金額が2.4倍に増えているということになります。ただし、ここでのリターンは、Unrealized Returnで、現金化されているワケではなく、各スタートアップの直近の資金調達時のバリューションをベースに計算したペーパー上のリターンとなります。
このIRR 46%が何を意味するかというと記事中にあった以下の図を参照ください。
つまり彼らはトップ25%のベンチャーキャピタルの平均パフォーマンスよりも(ずば抜けて)良いということになります。もちろん、将来も同様のパフォーマンスを出し続けることができるかは未定ですし、最終的にリターンがもっと下がる可能性があります。CEOのNaval Ravikantも以下のインタビューで語っていますが、2015年にスタートアップのバリューションが高騰したので、一時的なラッキーもあったのかも知れません。
それでもAngelList上では、勝ち組スタートアップの資金調達が行われていると見て間違いないと思います。ちなみに、2013年に行われた投資先リストはこちら。
では、なぜクオリティの高いスタートアップの資金調達ががAngelList上で行われているのでしょうか?
そのキーをNavalのインタビューも参考にしながら考えてみたいと思います。
(YoutubeのNavalインタビュー)
シンジケートリードへのインセンティブの最大化
これまでエンジェルは、自分が支援したいと思うスタートアップに対して、例えば25,000ドルを投資していたとします。AngelListを使うと、他の投資家からもお金を集め、例えば30万ドルを投資することができます。そして、投資先がうまくエグジットした場合は、成功報酬として投資利益の例えば15%を得ることができます。
上記の例で例えば、投資した時のよりも20倍の価値で買収された場合、25,000ドルを直接スタートアップに投資した場合のリターンが50万ドルとなり、一方シンジケートをして他の投資家とともに30万ドルを投資した場合は、1.35Mドルとなります。かなり大きな差ですね。
(参照元:AngelListのシンジケート説明ページ)
もちろん、リターンを大きくする仕組みを提供していることはそれだけで魅力的ですが、AngelListは、シンジケートリードが同社のプラットホーム上で、シンジケートを組みやすくする仕組みをいろいろ用意しています。
シンジケートリードをサポートする仕組み
①投資家ネットワーク
AngelList上では、2013年以降425Mが投資されています。規模をより大きくするために、エンジェル投資家だけではなく、CSC UpshotというAngelListに特化した$400Mのファンドを誘致したり、自分たちでもAngelList上のトップ案件に投資を行うAccess Fundというファンドを立ち上げたりしています。これまでのAngelList上での案件サイズの39万ドルで、アーリー案件の資金調達の一部のみがAngelList上で調達されてきたと考えられますが、今後はより大きな金額でも、AngelList上で調達することができるようになるでしょう。
②ファンド業務の代行
ファンド業務に関わる面倒な法律上の手続きや他の投資家の税金申請用のペーパーワークなどの投資に関わる煩わらしい業務を全てAngelListにお願いすることができます。対価としてAngelListは、成功報酬の一部(キャリーの5%)を受けとります。ただし、AngelListは通常のベンチャーキャピタルのように管理報酬を受けとらないので、シンジケートリードがAngelListへの毎月の支払いを心配する必要がありません。
③プライベートディール
現在AngelList上での案件は全てプライベートとなっており、シンジケートリードが承認した人でないと案件の内容を見たり、参加したりすることができません。これによって、スタートアップは安心して自分たちの会社の情報をAngelList上に出すことができるようになりました。
スタートアップから見ても、最も自分たちの力になってくれるエンジェル投資家により大きなリターンを与えることができ、彼ら彼女らの力をもっと借りることができるようになるでしょう。さらに、AngelList上で調達できる額が増えれば、資金調達をより効率的に行うことができます。
AngelListのこれからの進化に目が離せませんね!!
偉大なマーケットプレイスに見る6番目のファクター
以前このブログで紹介した『マーケットプレイスガイドブック』ですが、その中で、筆者であるVersionOneのBoris WertzとAngela Tran Kingyensは、マーケットプレイスが成功するために必要な5つの要素をあげていました:
- 市場が細分化していること
- 売り手と買い手の関係が固定的でないこと
- 利用頻度が高いこと
- 市場が大きいこと
- 決済に関係すること
そして、8月の彼らのブログの中で、6つ目の新たな要素を紹介されていました。
それは、偉大なマーケットプレイスは、新しい取引を生み出し、新たな価値を市場にもたらすというものです。
インターネットによって、買い手は、売り手を簡単に探せるようになり、市場は効率化しました。しかし、それは、限られた需要と供給内での効率化であり、市場自体が大きくなった訳ではありません。
一方で、P2Pマーケットプレイスやシェアリングエコノミーは、これまで存在しなかった供給と需要を発生させ、市場自体を大きくしています。AirBnBによって、空いている部屋に他人を泊めるユーザが何十万人と出現しましたし、P2Pのマーケットプレイスでも、新たな売り手が毎日沢山生まれています。
マーケットプレイスを考える上で、市場を効率化させることが主な目的か、それとも市場を拡大し、新たな価値を作り出すことができるか?といった視点は、面白いですね。
なぜオバマ政権下でヘルスケアスタートアップが大量に生まれたのか?
(写真:whitehouse.gove)
前回は、バイオについて書いてみましが、今日は、オバマ大統領が米国で起こしたヘルスケア革命が、スタートアップ・エコシステムにどのようなチャンスをもたらしたかを書いてみました。
オバマ大統領は、ヘルスケア改革を公約の1つとして当選し、その後、任期中にアフォーダブルケアクトを含め、ヘルスケア全般で様々なイニシアティブを取ってきました。
例としてよく取り上げられるのが、健康保険制度改革です。米国では、必須ではなかった健康保険を義務化し、加入していないと罰金が課せらることになりました。結果、1270万もの人たちが新たに健康保険に加入しました。オバマケアによって従業員に保険に加入してもらう必要の出て来た中小企業向けの保険代理店事業(例:Zenefits)や新たな保険商品を自社で提供するスタートアップ(例:Oscar)などが生まれました。
そして、オバマ政権下では、健康保険以外にもヘルスケアスタートアップの大躍進に寄与した以下の大きな考え方のシフトがありました:
- 診療報酬のボリュームベースからバリューベース
- 医療データのデジタル化への後押し
診療報酬のボリュームベースからバリューベスへのシフト
これまでの診療報酬は、治療内容・項目に基づく医療費の設定(ボリュームベース)に基づいて計算されていました。オバマケアでは、ボリュームだけではなく、患者中心のバリューベースによる医療費の払い戻し制度を導入しました。バリューベースでは、お医者さんは、より多くの治療を行うことではなく、自分が治療した患者が、その後どれくらい健康であったかによって医療報酬が変わってくるようになったのです。
これにより病院は、退院後や通院と通院の間にも患者さんの健康状態を確認する必要ができました。スタートアップは、このニーズを察知し、リモートモニターやリモート診療のスタートアップが数多く生まれました。
さらに、病院が診ている人口の健康状態全体を管理しようというコンセプト「ポピュレーションヘルス」が生まれました。リモートモニターデバイスやウェアラブルから大量のデータが入ってきますし、ユーザの健康診断のデータなども含めると病院は膨大なデータを使って地域の住民の健康管理をしなければなりません。それらのデータを使って人口全体の健康を管理するのを助けるスタートアップ(例:Evolent Health)が誕生しました。
医療情報のデジタル化
2009年に設定された法律によって、病院は2014年までにEHR(Electronic Health Record: 電子カルテ)を導入しなければならなくなりました。また、政府は、早く導入・使用すればするほど、補助金が多く出るというインセンティブを与える一方で、期限内に導入できなければ、Medicare(65歳以上向けの国民保険制度)からの診療報酬の払い戻しが減額されるということで、医療機関は、本気でEHRを導入することとなり、Practice FusionやCareCloudのような導入が簡単なSaaS型のEHRスタートアップが出現し成長しています。
さらに、2015年末のオバマ大統領の一般強調演説では、プレシジョン医療(遺伝子・生活環境などの個人の特性に合わせた医療行為)イニシアティブの立ち上げや、バイデン副大統領をヘッドにしたキャンサー・ムーンショットでがんの撲滅のプロジェクトが発表されました。どちらのイニシアティブにも遺伝子情報やCTR、MRIを含む検査データなどの膨大なデータを扱うので、テック系スタートアップが活躍できそうな分野です。
CBInsightのデータによると、2013年からヘルスケア系のスタートアップへの投資が数・額ともに伸びています。
新たに生まれたスタートアップは、医療機関だけではなく、増大する保険料を下げたいと思っている保険会社も注目し始めています。
今後数年で、これらのスタートアップによって、米国の医療がどのように変わったかが数字として現れてくることでしょう!
参考になった記事)
クラウド・バイオロジー
アンダリーセンホロウィッツ(a16z)がUS$200Mのバイオファンドを始めたり、ハードウェア専門のアクセラレーターを主催しているSOSVが、サンフランシスコとヨーロッパにて、Indie.bioというバイオテック専門のアクセラレーターを始めたり、さらには去年の夏からY Combinatorでもバイオテックのスタートアップに投資したりと、テック系の投資家がバイオテクノロジーに注目をしています。
従来は、バイオ専門の投資家が中心だったバイオテック領域に、なぜ今テック系のVCが注目しているのかを、a16zやIndie.bioが公開しているコンテンツを元にまとめてみました。
急激に進むDNAシーケンシングの価格低下
以下のグラフは、National Human Genome Research Institute (米国立ヒトゲノム研究所)からのレポートからの引用です。
2008年くらいからDNAシーケンシングの価格がムーアの法則を超えるスピードで下がっています。次世代DNAシーケンシングという技術革新により、遺伝子の読み取り価格がすごいスピードで下がっています。また同技術によりスピードも上がっています。
ソフトウェア系のスタートアップでは、AWS(アマゾンWEBサービス)のクラウドサービスの出現によって、起業のコストが劇的に下がりました。以前は自分たちでデータセンターと契約し、サーバを買う必要があったため、企業コスト($10-20M)かかっていたところが、今では個人のクレジットカードでAWSを契約し、オープンソースを使ってさくっとプロダクトを作れます。$2-3M調達すればアイデアの検証と初期段階のビジネスまで作ることが可能となりました。
バイオテックのスタートアップの場合、自分たちでラボを用意し、ラボの科学者を雇ってといった段取りを踏み、長い時間をかけて実験をする必要があったため、初期投資が$100Mくらい掛かっていたそうです。今では、a16zのバイオファンドのジェネラルパートナーを務めるビジェイ・パンデ (Vijay Pande)氏によるところの”クラウド・バイオロジー”によって、ラボ業務を全部アウトソースすることができるようになり、ソフトウェア系のテックスタートアップと同じくらいの投資額で、起業ができるようになりました。
もちろん、これまでもCRO(Contract Research Organization)という形態で、ラボの実験を受託する会社もあったのですが、Transcripticのようにロボットを使ったラボ実験受託スタートアップに代表されるように、データやソフトウェアを最大限に活用(バイオテックのコード化)することができ、実験の再現性やスピードを格段に上げることができるようになったことは大きな変化であると捉えられています。
(写真は、Transcripticのラボロボット。The Verge "Inside the secret robot lab that's shaking up sciense." より)
まさに、高い資本効率とスピードといったテック系のVCが好む条件を満たしていますね。
a16zのビジェイ・パンデ氏によると、スタンフォード大学の学生の80%は、自分の専門分野に加えてプログラミングの授業を受講しています。もちろん、バイオ分野も例外ではなく、バイオとコンピュータの両方を理解している学生が増えているとのことで、彼らがAI等を活用した新しいタイプのバイオテックベンチャーを起業しています。
製薬会社における変化
元ファイザーのCEO ジェフ・キンドラー(Jeff Kindler)氏は、a16zのポッドキャス(Move Fast But Don't Break Things)の中で現在製薬会社で起こっていることを、かつてハリウッドで起こったことと似ていると言っています。
ハリウッドは、かつてのなんでも内製主義から、社外の専門家も使って映画を作るというビジネス形態に80年代に移行しました。製薬会社も、株主からのプレッシャーもあり、コストを抑えて事業を回すため社外の専門会社へのアウトソースを積極的に使い始めているとのこと。これにより、スタートアップも大手の製薬会社と仕事ができるチャンスが広がりました。
以上の理由から、バイオテックに本気になりだしたテックVC。現在シリコバンレーでは、従来のテック系のエコシステムも巻き込んで急速に発展しています。
今後もあっと驚くようなバイオテックスタートアップが生まれてくるでしょう。楽しみです!
続きを読む
Angel Listのシンジケート
*1:米国における適格投資家は、純資産100万ドル以上、または年収20万ドル(夫婦で30万ドル)と定められている
A Guide to MARKETPLACESの日本語訳
バンクーバーとシリコンバレーのパロアルトに拠点を置く、ベンチャーキャピタ versiononeが 2015年11月に公開した "A Guide to MARKETPLACES"を翻訳しました!
(ダウンロードに関する問い合わせを多数頂きましたので、Dropboxにも保存しました。)
versiononeは、ネットワーク効果が働くようなプロダクトを持つスタートアップへの投資にフォーカスしていて、これまで数々のマーケットプレイスを見てきました。さらに、同VC創業者のBoris Wertzは、自分でも古本のマーケットプレイスを立ち上げて売却した経験があります。本ガイドブックは、Borisの起業家、そして、投資家としての視点で書かれています。
このガイドブックを翻訳してみようかな?と思った理由は、インターネットのマーケットプレイスのことが体系立てて書かれていて、どういった市場を狙うべきか?それはなぜか?マーケットプレイスを立ち上げ育てる方法、どのKPIに固執すべきか等、事例を含めて分かりやすく解説されています。
さらに、現在のマーケットプレイスの状況やビジネスモデルを俯瞰して見てみるのにも良いテキストだと思います。
起業家に限らず、投資家、新規事業をお考えの皆さんに参考にして頂けると嬉しいです!
そして、フィードバックもお待ちしております!!